麻酔科専門医試験の口頭試問は、筆記と違って「何から手をつければいいのか」が分かりにくい試験です。
筆記なら過去問を回せばいい。では口頭は? 範囲が広すぎて、優先順位がつけられない。私も受験前はそうでした。
そこで、公開されている口頭試験の過去問を14年分すべて集めて、機械的に数えてみました。
結果は、思っていたよりずっと単純でした。
まず、合格率の推移を10年分並べます
「口頭試問は近年難化している」とよく言われます。噂ではなく、学会が毎年公表している講評の数字で確認します。
2016年度 91.9%
2017年度 94.6%
2018年度 96%
2019年度 85%
2020年度 86%
2021年度 80.9%
2022年度 74.2%
2023年度 81.2%
2024年度 80.4%
2025年度 89.42%
読み取れることは3つあります。
1. 2018年度を境に、はっきり下がった
2016年から2018年までは91.9%、94.6%、96%。ほぼ全員が受かる試験でした。それが2019年度に85%へ落ち、以降は80%前後で推移します。
2. 2022年度が底
74.2%。4人に1人が不合格という、集計した10年で最も厳しい年でした。3科目合計も72.0%まで落ちています。
この年の講評には、質問の中で根拠を問う出題がなされたため、付け焼刃な勉強や曖昧な知識の受験者には回答が難しかった、と書かれています。
3. 2025年度に、9ポイント跳ね上がった
80.4%から89.42%へ。2018年度以来の高水準です。3科目合計も74.8%から83.58%へ改善しました。
なぜ上がったのか。過去の講評を並べると、理由らしきものが見えてきます。
2025年度に、出題の作り方が変わっています
2023年度と2024年度の講評には、口頭試験について「12題の症例問題が出題されました。受験者は2つの試験室に入り、2つの症例について試験を受けました」としか書かれていません。
ところが2025年度の講評には、新しい記述が加わっています。
今年は12題の中に専門医受験に必須の心臓血管外科、脳外科、呼吸器外科、小児、産科の手術の麻酔に関して1題ずつ5つの問題を作成しました。組み合わせは特殊症例の問題が2つ重ならないように配慮しました
必須5領域から1題ずつ。特殊症例が2つ重ならないよう配慮。
この設計方針が明示されたのは2025年度が初めてです。そして同じ年に合格率が9ポイント上がっています。
受験者にとっての意味は2つ。出題の予測可能性が上がったこと。そして「特殊症例を2つ重ねて引いて終わった」が起きにくくなったことです。
過去問14年分を数えました
ここからが本題です。2012年度から2025年度までの14年分の過去問を集め、出題された症例を領域ごとに分類しました。
「14年のうち何年に登場したか」で並べた上位は、次のようになりました。
術後鎮痛・PCA・硬膜外 14年 / 14年
心臓血管外科 13年
体位(腹臥位・側臥位・頭低位・座位) 13年
小児・新生児 13年
困難気道 13年
肥満・睡眠時無呼吸 13年
神経ブロック 12年
産科・帝王切開 12年

術後鎮痛は、領域ではなく「必修科目」でした
いちばん驚いたのがここです。
術後鎮痛は、14年すべてに登場しています。
しかも、症例のジャンルを問いません。心臓でも、小児でも、産科でも、呼吸器外科でも、ほぼ必ず「術後鎮痛はどうしますか」と聞かれています。
つまり術後鎮痛は、どの症例を引いても必ず答えることになる唯一の論点だということです。
私は受験前、頻出ジャンルを自分なりに把握して同期に共有していました。実際それで彼は合格したのですが、データを取ってみると、自分の記憶はかなり偏っていました。術後鎮痛を「他の領域と並列のひとつ」として扱っていたのは、明確に間違いでした。
硬膜外、IV-PCA、各種ブロック、多角的鎮痛。どの症例に当たっても対応できるよう、ここだけは最優先で固めるべきです。
もうひとつ、抜けていた領域
データを見て気づいたことがもう1つあります。
「研修医・専攻医の指導」と「医療安全」が、14年中7年で出題されており、しかも近年増えています。
2023年度には「ロボット支援下子宮全摘手術における専攻医指導」、2024年度には「左大腿骨骨接合術における研修医指導」という症例が出ています。
専門医は指導する立場である、という試験側のメッセージだと思います。自分が手技を知っているだけでなく、後輩にどう教え、どう安全を担保するか。ここは盲点になりやすい部分です。
残りはnoteにまとめました
この記事に書いたのは、解析結果のごく一部です。
全21領域の出題頻度、直近4年の全症例タイトル、そして設問の「形」がここ数年で大きく変わっていることについては、noteにまとめました。
特に設問形式の分析は、練習方法そのものを変える内容になったと思っています。2022年度から2025年度の4年間で、ある特定の形式の設問が182回登場していました。
あわせて、ネット上にほとんど情報のない実務面も書いています。
・試験室の中で実際に何が起きるか(時間構成、試験官の人数、症例の提示方法)
・待機室の様子と、持ち込めるもの・預けるもの
・服装
・神戸ポートピアホテルのシングルが取れない構造的な理由
・新神戸からの移動で、朝一集合だと間に合わないルート
・2024年度に実際に失格者が出た理由
・私の練習は合計何回だったか
・費用の全内訳
自分が受験前に知りたかったことを、全部書いたつもりです。

筆記試験の対策については、こちらの記事にAnkiの学習ログを全部公開しています。

おわりに
合格率89.42%。10人に1人が落ちる試験ですが、裏を返せば9人は受かります。
準備した人が落ちる試験ではありません。ただ、対策の中身が筆記とは違うというだけです。
14年分を数えて出てきた結論は、驚くほど単純でした。術後鎮痛を固めて、必須5領域を押さえて、声に出して練習する。それだけです。
今年受験される先生の、何かの役に立てば幸いです。
※本記事は2025年度(第64回)の受験経験と、日本麻酔科学会が公表している講評および公開過去問に基づく個人の分析です。試験の形式・日程は年度により変更されます。最新の情報は必ず学会の公式発表をご確認ください。


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